那覇市の漫湖水鳥・湿地センターには、水辺にマングローブ林があって、木道で中を観察することができる。映画「天空の城ラピュタ」で、ラピュタ中枢の飛行石の床に水が溜まって木だらけでしょう、マングローブ林床はあんな感じです。
林の端まで行くと、水辺のむこうに、またマングローブ林が見え、その間はぼつぼつと群状に生えている。これに何か不思議なものを感じたので、そこで中学生に鳥類を観察させていた人(センター職員)に「不思議な風景ですね」と言った。
そうしたら「そうなんですよ、よくお気づきで」という答えが返ってきた。
こういうわけである。
マングローブ林が広がりすぎると、干潟が減少して水鳥が来なくなる。また、河口に林があると、川の土砂堆積物が海に排出されなくなるので防災上も都合が悪い。そこでマングローブの密度を調整している。ぼつぼつ生えているように見えたのは、人為(さしずめ強度間伐)の結果なのだ。
また、このマングローブ林は1990年代に水質改善のために植栽したものだが、実はここが歴史上マングローブ林であったことは おそらくないだろうという。なぜなら、干潟がそもそも人為の結果だからだ。自然状態ではここは海であった。米軍の物資輸送のための地形改変などで、土砂が堆積して干潟になった。
海が人為によって干潟になり、都市化による水質汚染の解決のためにマングローブ人工林をつくり、さらにそれを密度調整している。ここは3重の意味で人為的な景観なのであった。
「不思議だ」と言った私に、それを察知できる眼力があったとは思えないが、不思議だと感じたことを「不思議だ」と発言してみることには価値があることを知った。
説明を受けるまで「ここにはもともと広大なマングローブ林があって、失われたそれを人びとが回復したのだろう」と勝手に物語をつくって感心していた。ふだん「林床がすっきり見通せる人工林を自然っぽいと感じるのは素人」と思っている普段の態度が、いかにイキったものであるかを自省した。