国有林野事業が特別会計制度から一般会計化されたときに、国有林の「機能類型区分」から木材生産(「資源の循環利用林」)がなくなった(2012年)。一般会計で運用する以上、国有林はすべて公益林でなければならず、木材を生産して収入を得ることを前面に出しにくくなったためである。一方で、当初から国有林の累積債務を返済するためには生産量を増やす計画になっていた。これは矛盾してくるだろう、というのが当時の私の見立てであった(『林研』236号、2013年)。
2023年12月に変更された「国有林野管理経営基本計画」では、これに関して面白い変化がある。
従来は、「木材等生産機能については、これらの区分に応じた適切な施業の結果として、計画的に発揮する」(『森林・林業白書』2023年)と説明されてきた。これが、
「機能類型区分の管理経営の考え方を踏まえ、水源涵養タイプに区分された人工林のうち自然条件や社会的条件から持続的な林業生産活動に適したものを特に効率的な施業を推進する森林として設定・公表し、当該森林を活用して主伐・再造林等の主に林業に関する取組を民有林関係者に分かりやすい形で効果的に進める」
となっている。
今回の計画においても、水源涵養タイプ以外の区分からも木材は生産されてくるはずだが、とくに水源涵養タイプでは「効率的な施業を推進する森林」が指定されるわけだ。なんでかというと、
「効率的な施業を推進する森林の区域というものを設定いたしまして、こういった中で有利な、自然的条件、社会的条件が有利な場所で、少しでも価格が、山元の収益性が高まるような施業というものをやっていく」(業務課長。林政審議会、2023年10月17日)
ためだという。
「効率的」とは具体的になにをする(他の木材生産と作業上なにが異なる)のかは
「本庁で決めるのではなくて、各森林管理局・署の方で、その地域で使われている作業システムに適したものを考えて区域を特定してもらう」(国有林野部長。同)
というので、まだよく分からないが、民有林の
「市町村の方で、似たような名前なんですけれども、「特に効率的な施業が可能な森林」」(国有林野部長。同)
に相当するとされる。民有林では、市町村森林整備計画の木材生産機能維持増進森林の中に、さらに「特に効率的な森林施業が可能な森林」を設け、皆伐後の植栽を必須とすることになった(2021年)。この国有林版という位置づけなので、明確に主伐・再造林をする(天然更新はしない)場所という意味だろう。
面積は、
「対象は水源涵養タイプの人工林なんですけれども、全部で大体170万ヘクタールくらいですが、今の検討状況でございますけれども、おおむね3分の1ぐらいがこのエリアの規模感」(経営企画課長。同)
という。水源涵養タイプ人工林の育成単層林174万haを対象とすると、約57万haだ。
759万haの国有林のうち、木材生産をして経済的にペイするのはこのくらいということだろう。国有林は山のてっぺんが含まれるし天然林も多い(7割)し平均蓄積も低いので、人工林224万haの4分の1と考えれば、まあそんなところかもしれない。
国有林の皆伐面積は約5,900haなので(2021年度。平均260m3/haだからなかなか厳しい)、57万haは同様のペースなら100年、倍に増産(300万m3/年)したら50年である。「新しい林業」で伐期30年にすると500万m3/年。このほか間伐でも木材は生産されるが(現状ではそちらのほうが生産量は多い)、国有林が(計算上)赤字をつくらずに継続できる木材生産規模は500万m3/年くらいが上限なのだと思われる。
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ところでもう一つ、今回の変更で、旧計画にあった
「特に一定の施設整備を行うべき地域については、需要動向等も踏まえつつ、広く公衆の保健利用に供するための計画を策定し、国土の保全、自然環境の保全等の公益的機能との調和を図りながら、民間の能力を活かして休養施設、スポーツ又はレクリエーション施設、教養文化施設等の整備を行うこととする」
という記述は、まるごと削除されていることも興味をひく。
「「レクリエーションの森」の管理経営に当たっては、民間活力を活かし」という記述は残っているので、民活路線をやめたのではなさそうだが、「広く公衆の保健利用に供するための計画」のもとになっている森林保健機能増進特別措置法が廃止されたわけでもないのに、この部分を削除している理由はなんだろうか。林政審での説明も見当たらない。単純にそういう時代でなくなったということかもしれないが。