高速バスで、不思議な節まわしで車内アナウンスをする運転手がいる。
「①次は伊那インターにーー②とまりーーー(ます)」
「①車内にお忘れ物のないようーー②ご注意くだーーー(さい)」
と、①の部分を高く、②を低く発音し、語尾はほとんど聞こえない音になる(発音される場合は高く発音する)。イントネーションも特殊である。無線交信など普通の会話のときはそうなっていないので、アナウンスのときにだけこうしているのだろう。
これはどういうふうに開発されたのだろうか。客の聞き取りやすさを考慮して、という可能性はたぶんない。実用的には、聞き取りにくいことこの上ないからだ。日本語は語尾で肯定/否定を明らかにするので、そこが消えると本来は困る。
バス会社の社内教育によるものかもしれない。他の運転手はここまで高低をつけていないように思うが、語尾のですますをきわめて弱くし、その前の母音をのばす人は他にもいる。
最初は普通にしゃべっていたのだが、だんだんとこのように変化してきたのかもしれない。たとえば、長い文章を記憶する方法として。あるいは、「同じことをテープが喋るのだから実用的にはなくてもよい肉声アナウンスを、社内方針でしなければならないがゆえに、聞き取れなくてもいいものとして話すスキャットのようなもの」なのかもしれない。