森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
いきいき信州の森林(上)木材の利用
赤堀楠雄
長野県林業コンサルタント協会・風来舎、2022年
 林業・製材業に詳しいジャーナリストが、信州の事例に焦点を絞って書いた本だ。信州で森林・環境共生学を学ぶ人、長野県内で就職するつもりがある人は必読である。
 上巻では、とくに製材業に注目している。林業とか森林管理の話では、造育林や伐採の担い手には関心が向けられるが、製材業にはそれほどではない。しかし、農漁業とちがって、山の木はそのままでは消費者は利用できない(ことが多い)。丸太を製材品に加工する人がいてこそ、消費者と山がつながる。カラマツの材としてのクセの強さを なだめながら四角くできる人、アカマツの自由に曲がっているのを活用できる人、そういう高度な技術をもつ人が信州にいないと、山の木は活かされない。著者は繰り返し、そのことに目を向けさせる。
 全国的に地域の中小規模の製材所は、数を減らしている。信州でもそうである。林業就業者は「緑の雇用」政策などでそれなりに維持されている一方で、地域の製材業に対しての有効な施策はとぼしく、技術や経営の継承の課題は大きい。
 著者はその問題点を直視する。しかし新しい変化もとらえている。20~30歳代の経営者・技術者が信州に現れてきているのである。この本を読むと、登場する世代が若いことに気づくだろう。この人々と、これから一緒にやっていくことが、信州でやる森林・環境共生学には求められているのだと思う。
 事情通が、その地域の林業について ここまで詳しく新しい本を書いてくれるということは、他の県ではなかなかないと思う。私たちは幸運である。この機会からぜひ学びたい。
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