森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
限界ニュータウン:荒廃する超郊外の分譲地
吉川祐介
太郎次郎社エディタス、2022年
 今では思いうかべにくいことだが、土地は値上がりしていくだろう、と誰もが考えた時代があった。1970~80年代である。開発業者が山林や農地を宅地の形に造成し、人々は住む予定がないのにその土地を購入し、値上がりしたら売ろうと考えた。居住のための宅地というより、投機のためのモノだ。この本は、そこが現在どうなっているのかを書いている。
 造成してから一度も利用されたことのない「宅地」の中に、ぽつんぽつんと住宅が混ざった団地だ。70年代の生活スタイルにあわせて区画がつくられているので、郊外なのに狭い。隣の土地を購入しようとしても、むかし高い価格で買ってしまった所有者が安く売ろうとしなかったり、安すぎるので不動産屋が取り扱ってくれなかったりする(安い土地でも手続きの手間は同じなのだ)。もともと住むことをあまり想定せずに開発したからか、側溝が、法面が、水道が壊れていく。自治会や管理組合がないと修繕もできない。もとから公共交通機関はなく、病院や学校も遠い。農山村の居住問題も深刻だが、分譲地もなかなかのものだ。
 これは、人々の住む権利を保障するための計画的な都市・まちづくりがおこなわれず(人間は住むところが必須なのに、住むところを確保するのは私事だとされ)、土地を投機の対象としたことの結果だと思う。大地は地球の一部で有限である。それなのに自分で使う予定もない大地を購入できてしまうのは、なぜなのだろうか。また、使いもしない土地を購入しておくことが「賢い」とされたのは、どうしてなのだろう。現代社会ではそれは考えるまでもない当然のことなのだけど、これを考えることが環境共生への理解につながるように思う。造園学に関心がある人は読んでみられたい。
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© 2022 三木敦朗