森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
森と木と建築の日本史
海野聡
岩波書店〔岩波新書〕、2022年

大工道具の文明史:日本・中国・ヨーロッパの建築技術
渡邉晶
吉川弘文館〔歴史文化ライブラリー〕、2014年
 松本城には、ヒノキやマツのほか、ツガやモミが用いられているという(伊原惠司「古建築に用いられた木の種類と使用位置について」『保存科学』28号、1989年)。様々な樹種が用いられているのは、それぞれの木材の特性をふまえて適材適所に配したという理由のほかに、近隣で入手できたからという理由もあるだろう。こうした建築物に必要な巨木は、山からの輸送も大変だし、どこにでも生えているものではないからだ。
 『森と木と建築の日本史』は、日本の建築物が、どのような木を使ってきたのか、またそれをどのように森林から確保してきたのかを教えてくれる。
 日本には、15世紀ごろまで、木を縦方向に(繊維に沿って)切る縦挽きノコギリと、板を平滑にする台ガンナがなかった。ヒノキやスギにクサビを打ち込んで割り、製材していたのである。ヒノキの巨木が豊富にあった最初は、それで十分だったのかもしれない。
 しかし、都市をつくり、大規模な寺院や宮殿・城を建てると、近隣の木材資源は枯渇していく。一方で、木材のサイズを規格化したり、構法が発達して比較的細い木材でも建築できるようにするなどの対応がなされる。ノコギリやカンナの加工道具が発達するのも、都合のいいサイズ・形状や樹種の木が枯渇し、使いやすいとはいえない木を利用せざるをえなくなったことの結果かもしれない。
 こうした歴史的建造物を、どのように維持していくのかは現代の問題である。木造建築物は、木材を入れ替えるなどの補修をしていく必要がある。ところが、もはや国内には利用できる巨木はない。台湾の巨木を利用したこともあったが、それが今後も可能だとは思えない。歴史的建造物の補修のために育てている森林は、まだ小さい。それが使えるようになるまでの間、どうすべきなのだろうか。補修部分をあえて別の材料とすることも必要なのではないかと思う。絵画などでは、元の絵と区別がつくように(後世の人が分かるように)補修する方法がある。
 ところで、世界的にみるとノコギリは押して使うものが多い。そちらのほうが力が入れやすいからである。しかし日本では引いて使う。もともとは押しても引いても使えるタイプ(効率が悪い)だったのだが、引くタイプに統一されていったのだ。日本の主要な利用樹種が、堅い広葉樹材ではなく、強度のわりに軟らかい針葉樹材だったかららしい。そうした事情は『大工道具の文明史』が解明している。
 引いて使うノコギリは、加工精度を高めるのに向いていて、建築にも木材のパーツがぴったり合うことを前提とした独特の様式を生み出した。日本の伝統住宅が、ドアではなくスライドさせる障子・ふすまを用いているのも、列島の植生が影響していると思うと面白い。
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