森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
乾燥地林:知られざる実態と砂漠化の危機
吉川賢
京都大学学術出版会〔学術選書〕、2022年
 多雨な日本ではよくわからないものが、乾燥した地域の森林である。その姿や生態のイメージがわきづらい。それも仕方のないところがあって、乾燥地の樹林が実際にどのくらい分布するのかも2015年になるまで定量的には分かっていなかったのである。
 『乾燥地林』で、その全体像を知ることができる。
 乾燥した地域に生えている樹種は、その環境に適応しているので、乾燥そのもので弱ってしまうということはない。また、それを薪などに利用してきた人々の生活も、昔のままなら森林を減少させない。うまく利用してきたし、自然の回復にまかせて維持できるほどの利用度であった。
 しかし人口が増加し、炭が商品になったり、家畜が増えたりすると事情が変わってくる。厳しい自然条件であるだけに、乾燥地林は急速に「砂漠化」する危険性をもっている。
 日本でも、近世以前の人口密度が少なかった時代には、森林の消費が再生を上回らないので、共同のルールに基づいて利用したり、積極的に造林するということはなかった。そうした社会で利用圧が急に高まると、森林は減少していってしまう。日本では禁伐から造林へと対策がとられるようになるまで、100年単位の時間を要している。造林は必ずしも大昔からの文化ではないのである。
 乾燥地では、何を植えればよいのかから検討する必要があるようだ。植えた直後いっけんよく成長しているように見える樹種でも、10年後には衰えるかもしれない。また、風上・風下や地面の凹凸など、微妙な環境の差によって適する種類がかわる。なにより、いまの家畜の餌や現金収入を求める現地の人々が納得しなければ、造林地は長く維持されない。
 砂で山を築くがごとき、乾燥地林を維持することの難しさ。著者はしかし、試みられることから手をつけるべきであるという。
 ところで、中国の乾燥地では「三分造林、七分管理」という標語がたてられているそうだ。植栽よりもそのあとの管理が大切だという意味である。これは日本でも同じことが言える。
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