森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
山に生きる:失われゆく山暮らし、山仕事の記録
三宅岳
山と渓谷社、2021年
 短いルポタージュ集である。
 この本には、機械がほとんど出てこない。
 人が重い木を運ぶ。馬が運ぶ。ゼンマイや筍、山椒魚をとる。漆を搔き集める。木を削る。曲げる。茶を踏む。炭を焼く。これらの仕事は、かつては多くの場所でおこなわれていたが、現在では少なくなった。
 印象的なのは、仕事をしている人たちの普段の姿勢を書こうとしているところである。文化を残すという切り口ではなくて(もちろん、そういう思いもあるだろうが)、販売するものを生産する、仕事としてやっている部分だ。わざ を継承する人も、現れたり現れなかったりする。
 これらの仕事はいずれも、これから何万人もの人がやるという姿にはならないだろう(たとえば、日本中の伐採現場に馬があふれる未来は考えづらい)。だが、大勢が同じことに取り組むことがよいことだ、という発想自体が間違いなのかもしれない。私たちは、すぐに「担い手をたくさん増やす」ことを考えがちだ。しかし山は多様で、山の仕事も様々である。その一つをやりたい人が出てきたときに、できる仕組みがある、ということが大切なのではないだろうか。それが文化なのではないか。
 仕事風景が写真に収められているのもよい。私は今回、手橇の進行方向をようやく正しく知ることができた。手橇そのものは博物館などで何回も目にしていたのだけど、どうやって木を積むのか、どっち向きに進むのかが理解できていなかったのだ。
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© 2021 三木敦朗