森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
映画「素晴らしき、きのこの世界」
ルイ シュワルツバーグ(監督)
アメリカ 2019年作品
 至高のキノコ映画といえば「風の谷のナウシカ」(1984年)で、それが揺らぐことはないのだけど、この「素晴らしき、きのこの世界」も興味深い映画である。
 科学映画とはいえない。ちょっと怪しい内容だ。キノコの栽培会社を営む人を主人公として、キノコの魅力は何か、なぜキノコに魅せられるようになったのかを語らせている。そこには幻覚キノコの体験とか、科学的には根拠の薄い話とかが含まれていて、うさんくささも漂う。この映画のパンフレットにコメントを寄せている日本の研究者たちも、危うさを重ねて指摘している。
 一方で、キノコや菌糸の成長を微速度撮影(タイムラプス)した映像は、掛け値なしに美しい。これだけの映像を撮るのには相当の技術や努力が必要なはずだ。地面から出てくる天然キノコをカメラの正面にとらえるなんて、どうやったらできるのだろう。菌床を土に仕込んで撮っているのかもしれないが、そういう工夫だって素晴らしい。これだけでも一見の価値がある。
 映画の中では、菌類が土中や環境中に、普遍的に存在する生物であることが繰り返し語られる。キノコの幻覚性物質によって人類が進化したという話は謬論っぽいけど、菌類が身近なものであったことは確かだろう。キノコが毒をもつのは食べられないようにするためだが、美味しかったり神経に作用する(キノコ側にとって利益とは思えないような効能をもつ)のは、たしかに不思議である。それは人類が長く菌類と共存してきたためだろうか。
 また、菌類が分解者であることも語られる。私たちの廃棄物や、私たち自身も、いずれ菌類によって分解される。そこに菌類がいて、私たちも菌類の一部になっていく、というメッセージには、確かに不思議な包容力を感じる。『分解の哲学』(藤原辰史、青土社、2019年)という本もあるけど、映像だとよりダイレクトに伝わる。映像の面白い(と同時に、危うくもある)ところだ。
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© 2021 三木敦朗