森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
ドローダウン:地球温暖化を逆転させる100の方法
ポール ホーケン編
山と渓谷社、2021年
 この本は、いわばメニュー表である。
 前半は、エネルギー、食、女性と女児、建物と都市、土地利用、輸送、資材(水や紙、セメントなど)の各分野での「逆転させる」手法(計80)が示される。それぞれの手法を真面目に取り組めば、どのくらいの温室効果ガスを削減できるのかが試算されている。後半では、まだ確立されていない野心的な手法(計20)が紹介されている。
 どこから読んでもよい。随所の写真も美しい。内容も難なく読めるだろう。各手法のよい面ばかりではなくて、課題や成立する条件も記されている。多くの人が自転車を利用することは、もちろん排出削減に効果的だが、それは安全に大きな負荷なく走れる道路の整備が必要である、などだ。
 ちょっと意外なのを挙げておくと、林間放牧(シルボパスチャー)は80の手法のうち第9位の削減効果をもつらしい。後半では集約的林間放牧が改めて項目としてたてられているから、注目度は高いようである。
 ふつうのメニュー表と違うのは、示された80の手法のうち、効果の高いどれかをやればいいのではなくて、全部やる必要があるところだろう。だから、家の電灯をLEDにするとか、肉から野菜中心の食事にするとかの、個人的にできる項目だけつまみ食いして実施するのでは不足である。「「私」ではなく「私たち」に、止めることのできない、恐れ知らずのムーブメントにならなければなりません」(387ページ)。
 私くらいの中年になると、この「100の方法」という邦題を見れば、1990年ごろに「地球を救うかんたんなxx〔数字が入る〕の方法」式の本がいくつか出ていたことが思い出される。人々が地球規模での環境問題を意識し、何らかの行動につなげる点では意味がなくはなかったが、結局それでは事態は改善しなかった。個々人の努力に依っていたからである。
 気候危機は、個人レベルでの生活改善だけでは解決できない。また、革新的な技術開発や新発明に期待すればよいというものでもない。マイカーの利用を減らすためには、自転車の走りやすい道や、公共交通機関が整備されている必要がある。「私」が「私たち」になって、社会のありかたそのものを(も)変える必要があるのだ。
 とはいえ、社会のどこを変えればいいのだろう? その際に、このメニュー表は役に立ちそうだ。どこを変えればよいかのヒントになるだろう。たとえば、木質バイオマスの利用は結構なことだが、この本でも指摘されているように、使い方によってはマイナスの作用もしてしまう。そうならないようにするために、森林・環境共生学を学ぶ「私たち」は何ができるだろうか。
戻る
© 2021 三木敦朗