森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
森林・林業白書(令和2年度 森林及び林業の動向)
林野庁
2021年
 『森林・林業白書』は、森林・林業基本法に基づいて、政府の義務として作成されるものである(法定白書)。森林・環境共生学を学ぶうえでの基本文献だといえるだろう。ただし、白書は行政(林野庁)の公式見解(建前)を示したものであって、それを読み解く能力が読む側には求められる。
 本文を読む時間がない人は、グラフや図表だけでも眺めてほしい。情報源としてもよいし、「グラフから何を読み取るか」の訓練にもなる。
 白書は、林野庁のウェブページで全文公開されている。

 特集1「森林を活かす持続的な林業経営」では、「新しい林業」を提唱していることが注目される。これは新しい「森林・林業基本計画」で登場した用語だ。一方で、これまでの「林業の成長産業化」は後景にしりぞいた。「成長産業化」「新しい生活様式」など、その時々の政府のスローガンに合わせた結果だと思われるが、この森林の外からの言葉に、どのように内容を伴わせるかが課題である。
 では「新しい林業」とは何か。これは「自動化機械など研究開発中の新技術を含めて実装された」林業だという(49ページ)。造林コストの大部分を占める初期保育を、伐採直後に植栽をおこなう「一貫作業システム」(地拵えなどに機械を利用できる)や、現在の半分程度に植栽密度(本数)を下げる疎植(苗木を少なくできる)、早く成長する苗木(下刈り回数を減らせる)、自動機械化による生産性の向上などによって、低コスト化する。すると、林業労働者の賃金を高くしながらも、全体のコストは圧縮でき、黒字を増やすことができるという。これらは必要な方向性である。
 ただし、新技術が実用化されるという想定の「新しい林業」でもなお、黒字分は補助金分とほぼ等しいということは注目に値する(同ページ、資料 特1-47)。補助金がどれだけ出るかは、そのときどきの政治的・経済的力関係による。林業の健全な発展をのぞむ人々が発言力を持たねばならないし、それに市民の賛同が得られるように、森林の管理が適切である必要があるということだ。
 植栽密度に関しては、安直な全国一律の疎植に陥らないように注意を促しているのは面白い(33ページ)。どのような森林を育てたいかによって最適な密度は異なる。造林が安くすむから密度を下げるのではいけないのである。
 なお、特集のタイトルにもある「持続的な林業経営」という言葉は要注意である。いっけん「持続可能な発展」あるいはそのための「持続可能な森林管理」を連想させるが(ここでの「持続」の対象は人類社会全体である)、単に「経営が続くこと」を意味しているようでもあり、読む側を混乱させる。わざと粉飾しようとしているわけではないと思うが……。

 特集2「新型コロナウイルス感染症による林業・木材産業への影響と対応」は、新型コロナウィルス感染症への対策について述べている。20~30歳代で、自然の中でオフィスワークをするワーケーションや、地方移住への関心が高いことが示されている(61~62ページ)。若年層は資金力があまり高くないので、地方でこれをどのようにサポートできるかが重要であろう。

 第1章以降は、毎年の定型的な報告の部分であるが、興味深い点をいくつか挙げておこう。
 第1章「森林の整備・保全」では、「森林・林業基本計画」の内容が示されているが、この白書の公刊後に、新しい「基本計画」が決定されたので注意が必要である。
 今回の白書や基本計画では、伐採生産の拡大に比べて、その後の再造林が追いついていないことが指摘されている。そこで間伐特措法を改正し、成長の早い特定母樹をもとに生産した苗木を用いた「効率的な造林」が推進されることになった(76ページ)。間伐特措法はもともと、京都議定書の森林吸収源対策(間伐の推進によって、二酸化炭素の固定が促進されることにした)のために設けられた法律だが、間伐だけでなく、再造林(つまり主伐)も対象としてきている点が興味深い。これはパリ協定で、森林が伐採されても、木材が建築物などの形で使われるとするなら、炭素を貯蔵しているとみなすからである。したがって「伐期の短縮」(75ページ)が目指されることとなる。しかし伐採された木が、本当に長期間 固体として利用されるのだろうか。「パリ協定に基づく成長戦略」(112ページ)のもとで、書類上「カーボンニュートラル」「脱炭素」が進むが、真に温室効果ガスは削減されない(増える)ということが生じないだろうか。
 FAOの「世界森林資源調査2020」の結果に基づく部分では、アフリカの森林減少スピードが拡大していることが衝撃的である(104ページ)。国内の森林認証の普及の遅れについては、消費者の認識の低さを理由としているが(109ページ)、国有林が森林認証を一部分でしか取得していないこと、公共施設に用いる木材を森林認証材とするような調達方針がオリンピック関連施設以外では設けられていないことなど、消費者の責任とするより前に政府がおこなうべき対策はまだあるだろう。森林管理署などを木造で建て替えるように、である(220ページ)。違法伐採の存在を明記している点にも注目(77ページ)。

 第2章「林業と山村(中山間地域)」では、日本が森林蓄積量の0.5%程度しか木材を生産していないことが示されている(120ページ)。現在の規模で生産を続けると、いまある日本中の木を200年かかって使い切るということである(人工林だけでみれば1.4%=70年程度)。一方、宮崎県では35年程度で伐れる木がなくなる計算だ(13ページ)。両方の数字は単純比較はできないが、これは木材生産が地域的に偏っていることを意味する。豪雨等による山地災害の被災林道の延長(道の量)が、開設距離よりも多くなっている点にも注意(136ページ)。
 森林組合は、森林経営管理法などによる「新たな森林管理システム」の中で、「意欲と能力のある林業経営体」の典型として重視されている。昨年おこなわれた森林組合法の改正についての解説(125~127ページ)が新しい。森林組合の意思決定に、女性や若年層を含める方向になったこと(まだ「配慮」ではあるが)は重要である。
 薪の生産量は全国規模では横ばいだが、人口の多くない長野県が第1位であることをみると、まだまだ普及・拡大の余地はあるとみるべきであろう(141ページ)。先進地としての信州の位置づけが際立っている。

 第3章「木材需給・利用と木材産業」は、世界の動向が参考になる。欧州でのキクイムシ被害と、その対策のための伐採、輸出量の増加はすさまじい(155ページ)。アメリカからの木材輸入が厳しくなっているので(いわゆる「ウッドショック」)、住宅部材への国産材の利用の仕方も今後変化していくかもしれない(204ページ)。
 木質バイオマス発電は、全体としての適正配置の計画がないまま増加しているが、その調整を考えるべきところでも「成長産業化」を枕詞とせざるをえないという矛盾があらわれている(190ページ)。小規模熱利用を目的とする燃料材生産林は、薪炭林として各地域で歴史的に成立してきた実績があるが、大規模発電目的の燃料材生産林の実現は容易ではないだろう。熱利用の優位性を示していることは興味深い(191ページ)。

 第4章「国有林野の管理経営」では、かつては国有林の累積債務の状況が書かれていたが、国有林野事業の一般会計化(債務は国有林野事業債務管理特別会計)以降は記載されなくなった。
 「木の文化を支える森」が信州にとくに多く分布しているのは興味深い(233ページ)。アイヌ民族の文化的利用を保障することを、国有林野の「共用林野」制度によっておこなうこと(234ページ)には、問題点が指摘されているので参照してほしい(齋藤暖生「アイヌ共用林は「アイヌの森」復権の決め手となるか」)。

 第5章「東日本大震災からの復興」では、原子力発電所事故のあと除染されていない森林内のモニタリング地点の空間線量率の平均値が、ようやく汚染状況重点調査地域の基準値を下回ってきたこと(256ページ)、森林組合が避難先から拠点に戻れたこと(261ページ)などが報告されている。きのこ原木を生産している林での萌芽更新と放射性物質との関係は、今後も調査が続けられる必要がある。
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© 2020 三木敦朗