森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
森林・林業基本計画(案)
林野庁
2021年
 「森林・林業基本計画」は、日本の森林に関する計画のうち、もっとも重要な(最上位の)ものだ。きちんとした基本計画を作り、日本に暮らす人々の前に示すのは政府の義務である(森林・林業基本法という法律に書いてある)。5年に一度あらためることになっていて、ちょうどいま〔2021年5月当時〕、その案が出されているところだ。
 5月14日までなら、誰でも意見することができる(「パブリックコメント」という)。林野庁のウェブページからたどれば、簡単に意見書き込みのページが出てくる。森林・環境共生学を学ぶものとして、ぜひこの機会に意見を出そう。
 なんでもいい。ちょっと長いけど、全部読まなくてもいい。自分の関心があるところだけ読んでコメントすればいい。文章のここを読みやすく直してほしいとか、これを書いてほしい、ということでも十分だ。いいことが書いてあると思ったら、それをほめよう。その政策に力を入れてほしい、と書こう。

 政府に意見を出す、というと、なにか大変なことのように思う人がいるかもしれない。
 だけど心配は無用だ。林野庁の人たちも、意見がほしいのである。林野庁は、政府全体からみれば(農林水産省の中でも)小さな部署である。基本計画に多くの意見が寄せられれば、林野庁も「森林・林業には人々に注目されているのだ、だから重点を置かねばならないのだ」と言える。私たちの意見が、林野庁の仕事をやりやすくするのだ。
 また、林野庁は、森林・環境共生学を学んだ技術者で構成されている。「話のわかる」人たちである。さらに、基本計画は「林政審議会」という会議で議論される。ここには研究者も入っているから、出された意見をきちんと受け止めてくれるだろう。
 次の改訂は2026年頃である。5年後には、あなたは森林とは関係のない業界にいるかもしれない(もちろん、関係ある人が多いだろうけど)。今回の機会を逃す手はない。

 さて、私の見立てを書いておこう。
 「まえがき」では、新型コロナウィルスの問題とあわせて、持続可能な社会をつくらねばならないことが書かれている。SDGsは森林・林業にとって関わりの深いものだが、基本計画全体を貫くキーワードにはなっていない。惜しいところである。
 つづく「第1」という部分では、基本的な方針が書かれている。計画というものは往々にして(私たちの夏休みのように)計画を立てたあと、どうだったかという反省がないことが多い。しかし基本計画では前の期ではどうだったかをふり返っている。えらい。ここでは、主伐が増えた一方で再造林は3割しかできていないと指摘されている。1.1万haも造林されずに放置されているのだ。まじめに造林・保育をすると赤字になってしまうからである。これを技術革新や森林経営を持続的なものとすることで解決するという。林野庁はこれを「新しい林業」とよぶ。
 「第2」では、これから目指す森林の姿について書いている。ここは目新しい感じはしないが、初めて読む人は少し驚くかもしれない。同じ種類、同じ樹齢の樹木で構成された人工林(育成単層林)は全国に約1010万haあるが、この姿のまま維持するのは660万haなのだ。そのほかは「育成複層林」に誘導することになっている。が、それがどういう森林なのかは地域によって異なるので、イメージしづらいというのが従来からの問題点であった。これは今回の計画でも同じである。
 「第3」では、主伐が増えているので、それが持続可能なものになるように上限を設けるべきだと書かれている点が新しい。従来も上限は設定されていたはずだが、それとどう異なるのだろうか。きちんと再造林・更新がおこなわれるように指導を強化するとも書かれている。必要なことだが、地方自治体の人員が少ないのに、本当にできるのかが問われるだろう。生物多様性の保全については、NPOや住民による取り組みを推進する計画だ。これは期待できるところだと思う。
 「新しい林業」をおこなうのは誰なのか。基本計画は、その一つが「林産複合型経営体」だという。製材工場が森林経営もおこなうことを考えているのである。気になるのは、この複合型経営体が森林を手に入れることを政府が支援すると書かれていることだ。企業の一般的な寿命は30年程度で、森林が育つ期間に比べてはるかに短い。森林を長期的に経営することができるのだろうか。
 林業の労働環境の改善については、もう少し書いてほしかった。これが改善されないでは、いわゆる「担い手不足」は解決できないからだ。林業の「女性の視点を活かしたマーケティング」をおこなうという部分は、疑問である。目指すべきは、女性も希望すれば林業で(安全に、十分な賃金を得て)働くことができ、森林を経営したり利用したりすることができる社会である。現在のジェンダーを温存することではないと思う。
 キノコなど木材以外の生産物(特用林産物)は、金額的には「林業」の約半分を占めるが、それへの言及は少ない。木材の輸出入について計画しているが、その上で前提(常識)となる森林認証について触れていないのも残念である。
 私も基本計画(案)に意見を出して、自分の考えを伝えようと思う。



〔追記〕
 「森林・林業基本計画」のパブリックコメントで寄せられた意見への林野庁の返答が、林政審議会の資料(6月4日)に載っています。資料1「意見の概要」という部分です。
 これを見ると、意見提出者数が全国で58人と、まだまだ少ないですね。意見を提出してくれたかた、ありがとうございます。

 なお、私が出した意見は下記の通りです。【→ 】内が林野庁の回答(の要点)です。


(1) 森林・林業基本計画の内容全体でSDGsの目標との関連を明確にする
 SDGsに関しては「まえがき」に触れられているのみで、基本計画の個々の項目がSDGsとどのような関係を持っているのかが国民に分かりにくいと考えます。
【→ 基本計画本文とともに公表する予定の概要資料で整理したい。】

(2) 伐採・造林の指導・確認の人員確保を明記する
 第3-1-(1)イ(p.15)で、搬出方法の指導や更新の確認の推進が計画されています。地方自治体には人員が不足しており、現状の確認作業ですら不十分になっています。適正な伐採・更新のための指導・確認・監視のための人員確保を明記すべきと考えます。
【→ 伐採造林届出制度の見直しを行い、その制度に基づく指導等の強化を図っていく。市町村の職員数については、各々の自治体において適切で判断されるものと理解する。】

(3) 「新しい林業」の歩掛では十分な賃金水準の達成を明記する
 第3-1-(3)ウ(p.17)で、造林の省力化・低コスト化のための技術開発にあわせた歩掛の作成が計画されています。低コスト化は必要ですが、その作業を担う人々の所得が「低」くあってはいけません。歩掛は、造林作業で他産業なみのまっとうな所得が得られるように作成すべきです。
【→ 現場の工程等の調査を踏まえ適切に作成する。】

(4) カーボンニュートラルの実現は、温室効果ガスの実排出量削減の観点から実施する
 第3-1-(8)(p.20)のカーボンニュートラルの実現のための計画は、パリ協定の上で「森林吸収量」とされているものを前提にたてられています。しかし、パリ協定上の「吸収量」を増やすことが、実排出量を削減することにつながるとは限りません。パリ協定の目標順守はそれとして追求する一方で、日本からの排出量の実際の削減につながる対策をうつ必要があります。
【→ 木材・木質バイオマス等の利用を通じて、二酸化炭素の排出削減に貢献していく。】
 また、再生可能ネルギー開発に関わる林地開発・転用の際には、「地域の合意形成」に加えて、森林保全に関連する研究者の意見を反映するようにすべきです。
【→ 反映していく。】

(5) 「持続的な経営」に地域の観点を入れる
 第3-2-(1)ア(p.25)では、「長期にわたる持続的な経営」とは「社会的責任を果たす」経営であるとされています。森林の公益的機能の多くは、水害・土砂災害の抑止など地域社会に影響を与えるものです。地域の住民に寄り添い、とともにあり続ける経営が、地域社会に責任を果たす経営なのですから、要件の中には地域に根ざした経営であることが含まれている必要があります。
 また、「林産複合型経営体」が林地集積をおこなうことに「金融上の措置」をとることとされています。営利法人の平均的寿命は、森林の育成期間よりも短く、育成途中で解散する可能性もあります。林地集積に政策的優遇措置をとるのであれば、その「措置」の内容は公開されるべきですし、また優遇措置によって集積した林地には、転用の制限や法人解散時の林地散逸防止など強い規制をかけるべきです。
【→ 透明性や公平性を確保しつつ、効果が発揮されるよう適切に取り組む。】

(6) 「女性の視点を活かしたマーケティング」はジェンダー不平等を温存してしまう
 第3-2-(3)(p.28)に「女性の視点を活か」すとありますが、重要なのは、女性が林業・林産業に参入しやすくし、森林利用をすすめやすくすること、そして森林・林業に関わる意志決定・指導的立場で一定の比率を占めることです。それは無条件でなければなりません。マーケティングがうまくいくという利益があるから「女性の視点を活か」すというようなものでは、真の意味での人材確保にはなりませんし、古いジェンダーを政策的に温存してしまうことにもなります。マーケティングがうまくいこうが、いくまいが、女性の意見は反映されねばならないのです。
 したがってここでは、林政審議会を初めとする種々の会議や、中央産業団体での意志決定機関・指導的立場の女性比率を高めるための数値目標を明記し、そのような目標が達成できたところに政策的援助を強める(今後は「男社会」のままでは政策の対象とはしないという態度を明確にする)ことを記載せねばなりません。もちろん、女性を実質的権限のないお飾り的役職に就けて、比率を高くなったかのように見せかけるようなことがないようにせねばなりません。
【→ 今年4月に施行された改正森林組合法において、若年層や女性の参画を促進するため、森林組合の理事の年齢や性別に著しい偏りが生じないことへの配慮規定を新たに設けた。】

(7) 林業従事者の労働環境の改善を、公共事業・国有林野事業から始める
 第3-2-(4)(p.28~29)では、労働環境の改善について触れられています。これに関して政府は能動的に関与できます。公共事業や補助事業、国有林野の事業において、十分な賃金水準となるように単価設定をおこなうこと、労働安全対策が不十分や事業体を排除することの、姿勢を示すべきです。
【→ 補助事業等の採択に当たり事業体の雇用環境の改善の取組についても評価しているところであり、引き続き各種施策に要件づけていく。】

(8) 森林認証制度の推進を明記する
 基本計画には、森林認証について触れた部分がありません。木材・木製品の輸出を本格化するのであれば、森林認証の取得は当然の前提です。この推進について明記すべきです。
【→ 森林認証等への理解促進などに取り組んでいく。】
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© 2020 三木敦朗