森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
フクシマ 土壌汚染の10年:放射性セシウムはどこへ行ったのか
中西友子
NHK出版〔NHKブックス〕、2021
 東京電力福島第一原子力発電所事故によって、大気中に放射性物質が放出されてしまった。それらは、東北地域はもちろん、信州にまで降下した。とくに注目されたのは放射性セシウムである。半減期が2年のセシウム134と、30年のセシウム137は、環境内でどのように振る舞うのか。
 福島県は農林業の盛んな県で(たとえば木材生産量は、震災直後ですら長野県よりも多かった)、土地の多くは農林地だから、そこへの影響が解明される必要がある。この本は、10年間の調査の結果をまとめたものだ。
 放射性セシウムは土壌に強く吸着されていた。福島の海沿い(浜通り地方)の土壌は花崗岩からできており、ここに含まれる風化黒雲母の中に取り込まれているという。当初は、雲母の鉱石のすきまに入っているのだろうと考えられていたが、雲母を細かく割っても放射線は検出される。すきまではなくて、雲母を構成するカリウムと水酸化マグネシウムの間に入り込んでいるらしい。
 このように、調べてみないとわからないことがある。過去の大きな原子力災害(チェルノブイリ原発事故)では、放射性セシウムは水に溶け出しやすいかたち(溶存態)になっていた。日本ではそうではかった(懸濁態)。土壌のごく浅いところに吸着されていて、地下への浸透は非常にゆっくりである。水溶しているのではなく土が水に混ざって川へ流出していくのだから、大雨で水が土で濁るときは飲料用水をダムから取水しないという対策がとれる。
 農林業でどのような対策をとればいいだろうか。これは作物によって異なるという。表土を削るとか、土壌表面を作物の根が触れない深さに天地返しをするなどの対策もある。しかし、土壌は農家が作り上げてきたもので、耕地の上で均一に作物が育つように改めて整えるのにも時間がかかる。除染しても営農が再開できない農地ができる。カリウムを施肥することでセシウムの取り込みを抑えることができる作物が多いようだが、牧草は要注意だ。カリウムばかり多い草を食べると家畜が病気になるためだ。家畜はある期間、放射性セシウム物質で汚染されていない飼料を与えることで、肉や乳から検出されないようにできる。欧米では馬肉をあまり食べないので、放射性セシウムがどう吸収されるかについてのデータがなく、新しく日本で調べられる必要があった。
 一方、果樹園は表面を耕すわけではないし、(一年生草本作物と異なり)樹木から何年も生産するので、別の対策が必要だ。放射性セシウムをどこから吸収して、樹体の中をどのように移動するのかも、当初は十分に知られていなかった。根は土壌表面より下にあるので、そこからではなくて、どうも樹皮から吸収したらしい。樹皮にコケが生えていると、樹幹流を留めてしまうので、それを除去することが有効な作物もある。ただし、時間が経過すると樹木内の放射性セシウムが根の成長部分に運ばれ、それが枯死して土壌に入り、それをまた再吸収することがあるかもしれないという。継続した調査が必要なのである。
 これは森林でもいえる。福島県は全国有数のキノコ原木産地である。放射性セシウムによる汚染を回避するためには、切り株からの萌芽更新をさせるのがいいのだろうか、それとも植え替えるほうがよいのだろうか。まだ明らかになっていない。事故前に伐倒していたスギでも、樹皮についたセシウムが心材(木の中心部分)に移動したというから不思議である(伐倒されたあとは基本的には生命活動をしないわけで、直感的には移動しないように思われるのだが)。樹体の中での物質の移動や、樹体からキノコへの移動は、農作物より未解明の部分が多いのである。森林は広いので、林縁を除けば、除染作業はできない。放射線量が自然に下がるのを待つしかないのだから、その長い期間の林業従事者の安全確保が重要になってくるということだろう。
 放射性物質による土壌汚染は、対策をとることが可能だという側面と、それでも長期間の対策を要するという側面とがあることがわかる。いずれにしても、環境内で物質がどのように移動するのか、これからしていくのか、という解明が必須なのである。
 この解明には、事故前の研究データも役に立っている。森林表土での放射性物質の移動については、福山さん(流域保全学研究室)の研究があったことが重要であった(57ページ)。
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© 2020 三木敦朗