森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
地球・惑星・生命
日本地球惑星科学連合編
東京大学出版会
2020

対論!生命誕生の謎
山岸明彦・高井研
集英社インターナショナル(インターナショナル新書)
2019
 『地球・惑星・生命』を出した日本地球惑星科学連合(JpGU)は、天文学・地学・気象学など、主に惑星を扱う学会の集まりだ。学会というのは、研究者でつくったサークルである。この本は、いわば各サークルのエース選手を送り込んで作られたもので、惑星についての研究がどういう方向で進んでいるのかを知ることができる。森林と直接関係するところは多くないのだけど、多くないからこそ楽しんで読めるというわけだ(森林にもろに関係する本だと気が抜けない)。

 私が興味をひかれるのは、21世紀に入って、地球以外の惑星についての観測が飛躍的に進んだことだ。以前はかなりの部分が想像だった。今では惑星のまわりを周回する探査機がいくつも登場し、着陸したり、「はやぶさ」のようにサンプルを持って帰って(サンプルリターン)調査できるようになった。また、太陽系の外の惑星(系外惑星)も、直接観察できるようになっている。まだ点としてしか撮影できないけれども、複数のピクセルで観測できるようになるのは時間の問題だといわれている。ということは、その惑星の表面環境の変化がわかるということである。
 そこで期待されるのは、生命の痕跡が見つかるかもしれない、ということだ。太陽系内の惑星や、その衛星の中にも、わりと温度が高く、有機物が豊富な環境がある。これらは直接サンプルを得られるかもしれない。系外惑星には行くことはできないが、その大気のスペクトルを得ることができれば(恒星の前を惑星が通りすぎるとき、光が惑星の大気を通り抜けて、朝焼け・夕焼けの色になる。ここから大気の成分がわかる)、生物由来の物質の有無がわかる。遊離酸素(酸素分子)は、ふつう他のものの酸化に消費されて大気中には存在しない。それが大量にあれば、光合成する生物がいるかもしれない。また、地表の反射光から、クロロフィルのような物質があるかどうかもわかるという。
 今のところ、私たちは地球上の生物しか知らない。他の惑星・衛星の生物(宇宙生物)が発見されれば、人類の世界観を大きく変えることになるだろう。それだけではない。『対論!……』の中で語られているように、宇宙生物を知ることによって、私たちの生物学は、ようやく真の生物学になるのだ。今のは、せいぜい「地球生物学」でしかないのである。たとえば、地球の生命がどこから発生したのかについては、深海の熱水泉なのか、地表の温泉みたいなところなのか、議論がわかれる。これを地球上で確かめることはできない。しかし宇宙でならどうか? 土星の惑星で、生命が発生する条件を直接確かめることができるかもしれないのである。

 もう一つ興味をひかれるのは、災害に関することだ。森林は気候変動を緩和したり、山地災害を防いだりするけれども、それには限度がある。
 気候変動は、長期的な自然の変動もあるが、現在我々が直面しているのは人為由来のものである。重要なのは、温暖化を止めることが必要だということだ。温暖化は避けられないのだから、それに「適応」すればよいのではないか、という議論がある。もちろん適応のための技術は必要だが、問題は、今の「異常気象」に適応できたとしても、その先にはさらに異常な状況が待っている。適応に必要なコストはどんどん大きくなっていくだろう。
 適応技術は対処療法である。対処療法だけで病気を根治することはできない。どうしても、温室効果ガスの人為的排出という原因そのものをなくしていく必要がある。人間が原因なのだから、それを我々が解決することはできるのだ。
 また、災害が発生したときには、人々が避難することが必要になる。森林も、ダムも、それだけで防災できるというわけではない、むしろ逆に、森林やダムがあるから大丈夫だろう、と避難を遅らせてしまう可能性もあるのだ。
 この問題については、「防災小説」の試みが紹介された章が参考になる。子どもたちに、地域で気をつけねばならない災害を予測した物語を書かせ、最後を人々が助かる結末で終わらせるようにする。すると、人々が無事でいるためには、主人公(自分)がどのような行動をとればいいのかを自覚するというのだ。これは面白い。
 気候変動も同じだと思う。日々、リスクの話ばかり聞かされて気が滅入るのだが、気候変動を乗り越え、よりよい未来を2030年に迎えているという物語を我々が考えることもできるのである。そうすれば、自分がやるべきことが見えてくるのかもしれない。2030年の主人公として、あなたはどんな物語を生きるだろうか?
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© 2020 三木敦朗