森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
世界のふしぎな木の実図鑑
小林智洋・山東智紀・山田英春
創元社
2020
 この本は、樹木の「実」のうち、桃のようなみずみずしい液果ではないもの(乾果)を扱っている。草本の果実も一部載っているので、学術的な図鑑というよりは眺める用の写真集というべきだが。
 写真集なので、内容については本物を眺めてくださいと言うしかないのだけど、特徴を挙げておこう。
 一つは、同じ種類(科)の中での、果実の多様性を紹介している。どんぐりとか松ぼっくりといっても、いろいろな形や大きさのがありますわな、ということだ。そうなのである。信大農学部構内をちょっと歩いてみれば、小さいの(ヒノキ)、大きいの(ドイツトウヒ)、バラの花のようなの(ヒマラヤスギ)、サクランボのようなの(メタセコイヤ)などが手に入る。カラマツの球果は精巧な感じがする。ふつう思いうかべるであろう、アカマツの松ぼっくり型ばかりではないのだ。
 もう一つは、形状に多様性があることを示している。種子を散布する方法(戦略)が異なれば、形も様々になる。風にのせるもの、波に浮かべるもの、動物にくっつくもの、移動はしないが火災のあとの更地に種をまく仕組みのものなどだ。戦略が同じなら種類が異なっても、似た形状になること(収斂進化)を垣間見ることができる。
 あとは、理屈はともかく形状に驚嘆するという側面である。進化は、ありとあらゆる形を試していることがわかる。これをみると、人間の創造力とか造形力といったものは、まだまだたいしたことがないのではないかと思う。どの形も、それぞれの生きている場所、生き方で試され済みの最適解なのだから、うならざるをえない。
 この図鑑が乾果ばかりを収めているのには意味があると思う。これを見た人は、自分でも拾い集めたくなるからだ。だいたいいつの季節でも始められそうである。
 構内で拾ったドイツトウヒの松ぼっくりは、部屋の中で気づけば開いていた。湿度による収縮度の異なる素材を二つ貼りあわせておけば、機械的に鱗片が反る(開く)ようにできるのだけど、改めて変化を目にすると、実によくできているなあと感心する。自然の形には、意図はないが、意味はある。不思議である。
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© 2021 三木敦朗