森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
おいしい日本地理:まんがでわかる中学地理&ご当地グルメ
ぷぇんすく・くじょう
講談社
2021
 「マンガでわかる○○」という本の中には、章のとびらが漫画形式なだけで、解説の部分は文章というものもある。しかし漫画を読みたいのだから、半分くらいは漫画であってほしい。
 『おいしい日本地理』は、主人公が日本各地をめぐって食事をしながら、その地域についてのうんちくをぶつぶつ言う漫画である。食を中心にすえているのは、『孤独のグルメ』とかの影響だろうが、各地域の地理的条件や文化を反映させやすいという点ではうまいつくりである。伝統料理ばかりではないのもよい。
 したがって農学との関係もおのずと深くなる。松本に(うっかり)来る章では、ジビエ料理と松本民芸家具などが紹介される。東京の新宿では、伊那市高遠でも栽培される内藤とうがらしが登場する(新宿は高遠藩主・内藤家の屋敷を宿場町としたのが興り)。高知県の馬路村で、林業用のインクラインを紹介しているのも面白い。
 解説もので難しいのは、「誰が解説するのか」である。テレビ番組でよくあるのは「年配の男性が、年下の女性に教える」という構図だが、こればかりでは「女性は知識が少ない(ので男性が教えるべきである)」という誤った固定観念をつくってしまうのでよくない。では旅先で現地の人々に教わるという構図ならどうか。偶然出会った人がいきなり「この料理の根菜類は水田からの転作作物で」と解説するのは、いかにも不自然だ。そこでこの作品では、「主人公自身が詳しい」という方法をとっている。詳しいが、持っている知識は教科書的なもので、それを実地で確かめてまわっている、という話に仕立てているのだ。これはまあまあうまい方法だと思う。
 ではなぜ主人公はそんな旅をしているのか。ストーリー漫画である以上、行動には理由があってほしい。私は「主人公が宇宙人、あるいはアンドロイドだから」という予想をたてていたが、これはハズレであった。なるほど、そういう経緯なら地震に驚くはずである。

 いまのところ、内容がずばり「マンガでわかる森林・環境共生学」というような漫画は見当たらない(あったら教えて下さい)。出版社が手を出すかどうかは、その分野の関係人口の数で決まると思われるので、漫画解説本を読みたければ森林・環境共生学に関わる人を増やす必要がありそうだ。あるいは私たちが自分で作るか。
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© 2021 三木敦朗