森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
いただきますの山:昆虫食ガール 狩猟女子 里山移住の成長記録
束元理恵
ぞうさん出版、2022年
 20歳代の女性が広島の山間地(北広島町 芸北)に移住し、鳥獣や昆虫をつかまえて食べる生活をした5年間の記録である。
 こうした移住や狩猟の体験記は最近いくつかみられるようになってきた。それらの内容は統一されていない。それぞれの視点で語られていることが大事だ。その人の年齢や性別、移住前の履歴などによって、ものの見え方は異なってくるだろうし、実践した地域や年によっても、ちがったものが見えてくるはずだ。時代の記録としても貴重である。
 この本はといえば、とてもドラマチックである。著者自身のアグレッシブさもドラマを生んでいるが、地域の暮らしと狩猟をみちびいた地域の人々もすばらしい。著者が捕獲したニホンザルを食べてみたいと思ったときに、猟の「師匠」が賛同してくれ、一緒に食べる話など、地域の世界に入っていこうとする若者を支えるとは こういうことなのかと思う。文書もうまい。山は高くないが雪のよく降る、湿度の高そうな風土が感じられる。
 一方で、著者の体験は劇的すぎるという感覚もおぼえる。わずか数年間に様々なことをなしている。日常に大きな感動があると、それをひとりの心の中に蓄えるのは大変になってくる。「いつだって私が体験したことは過去の体験談として、家族や友人に話すしか共有する術(すべ)が無い」(257ページ)。かえって孤独感が高まってしまうのである。この感覚はわかる気がする。
 若い人が、それまで縁のなかった地域に とびこみ生活していくことは、もう珍しいことではなくなった。その際には、地域側に受け入れ体勢があるかどうかが注目されてきたが(社会の閉鎖性/開放性)、地域に入った人が同年代の仲間を得られるかどうかも、大切なのかもしれない。
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© 2022 三木敦朗