森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
山奥ビジネス:一流の田舎を創造する
藻谷ゆかり
新潮社〔新潮新書〕、2022年
 この本は題名のとおり、いっけん商売には不利に思える場所なのに成功している事例を採りあげる。パン屋、ジェラート屋、IT企業など、どういうビジネスをしているのかだけでなく、どのような経緯でそこに至ったのかも紹介している点がよい。共通する成功の要素も、おぼろげながら見えてくる。
 私はドイツ人デザイナーによる古民家再生(新潟県十日町市)、温暖化にともない岐阜から移転した酒造会社(北海道東川町)の事例を特に面白いと思った。山梨県小菅村の取り組みは、以前から森林分野ではよく知られたもので、大学・大学生が地域づくりに大きく関わっている事例である。概要を手軽に知ることができるだろう。
 一方で、「田舎」がたえず「一流」でなければいけない現状を問わなくてよいのだろうか、とも思う。「一流の田舎」というのは、富山県の市長の言葉で、都会の模倣(「三流の都会」)ではいけないという意味だ(166ページ)。これはその通りだが、本書では「一流」の意味が少しずらされて使われているように感じる。著者は、観光業なかんずくインバウンド観光を「基幹産業」としてとらえる(170ページ)。そこにアピールできる「一流」という意味あいが含まれているように思われるのだ。「田舎」のすべてが観光業で同時に「一流」であることはできない。
 これは何の産業でもそうで、部分的な成功事例を、全体に応用することは難しい。「田舎」が「三流の都会」になってはいけないのはいいとして、では「三流の田舎」なら衰退するしかないのだろうか。どんな地域でも一通りの生活ができるようにしておくことが、「一流」のチャレンジを可能にしているのではないだろうか。
 もっとも、著者が結論部分で指摘するように、女性をないがしろにするような場所に将来がないことは確かである。この点の改善が、全国どこの「田舎」でも今すぐ取り組めることだ。
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© 2022 三木敦朗