森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
「美食地質学」入門:和食と日本列島の素敵な関係
巽好幸
光文社〔光文社新書〕、2022年
著者は地質学(火山学)の研究者である。
この本の構成は明確で、それぞれの地域の特産物は、地形・地質の影響をうけてそこにある、ということだ。ときに力業ともいえる説明があるが、農林漁業は自然の条件に大きくは逆らわずに営む産業なので、土地のありかたが理解の要であるというのは、当然ともいえる。
たとえば、西日本と東日本では味付けがことなるが、これは水の硬度が東日本では比較的高い(それでも軟水だが)ということが影響しているらしい。信州で蕎麦が有名なのは、高冷地(山岳地)であること、そして火山による黒ボク土でソバ以外の作物が育ちにくいことを見逃すわけにはいかない。こうした地形・地質との関係は、樹種の分布や、造林するときの適地適木を考えるときにも根底にあるべきものだろう。
ただ、もちろんすべてを地質から説明することはできない。紀伊半島の山々が、フィリピン海プレートの潜り込みによって熱く融けたマグマの上昇によって形成され、それがアジアモンスーンを受け止めて多雨地帯となり、そこに吉野スギと尾鷲ヒノキの人工林林業地の形成の土台をつくったものだとしても(248ページ)、雨が降るところがどこでも林業地になるわけではない。大都市近郊であるとか海運がしやすいとかの立地が、産業としての発達には欠かせない。
食のように、「なぜそこにあるのか」を他の分野の知識と結びつけて考えてみるというのは、面白いことだ。似た方法で私たちの分野から解説するとしたら、どういうことができるだろうか。
© 2022 三木敦朗