森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
ひとかけらの木片が教えてくれること:木材×科学×歴史
田鶴寿弥子
淡交社、2022年
 木材解剖学・材鑑の研究者による本。
 歴史的建造物や仏像が、なんの木ででてきているのかを明らかにすることは、補修や学術調査のために必要だ。しかしこれは容易ではない。長年の使用で表面の色など材の印象は大きく変わり、サンプルを削り取ることも難しい。顕微鏡や、大出力のX線CTスキャンを用いても、たとえばアカマツとクロマツの材は見分けにくいという。
 面白いのは、「これは なになにの木でできている(はずだ)」と これまで言われてきたものが、改めて調べ直すと違っていたりすることだ。仏像の素材が韓国や中国と日本とでは異なるのは、植生が異なるから当然としても、それぞれの地域、それぞれの時代で「この樹種で作るものだ」という観念(常識)が様々であることも不思議である。
 機能的にその木でなければならなかったのか。それとも信仰など別の理由でその木を選んだのか。模様や色、香りなどの美的なものか。加工性、あるいは周囲で調達できることが優先されているのだろうか。製作した人には、それぞれの理由があったはずだ。材鑑は、それとの対話なのである。
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