森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
農村における農的な暮らし再出発:「農活」集団の形成とその役割
小林みずき
筑波書房〔JCA研究ブックレット〕、2022年
私たちは農村地域に住んでいる。でも、生活サイクルの中に農業があるわけではない。学生なんだから当然だろう、と思うかもしれないが、一般の人でもそうなのだ。いまや農家の人でもそうである。農村に住んでいるから、農家だから、自動的に「農的な暮らし」をするとは限らないのだ。
これは、政策が「仕事としての農業」(農産物を販売する農家)に力を入れてきたからである。研究でも、大学で教えるときも、自給的な農業は軽視されてきた。
また、販売農家でも、一家全員が農業をするとは限らなくて、農業を担当する人と 勤めに出る人とに分業するのも普通である。だいたいは若い家族成員が勤めに出る。すると、その人は定年まで農業には関わらない、ということがおこりうる。
一方で、「農的な暮らし」への期待は高まっている。これまで農業への入口は、市民農園(クラインガルテン)など、どちらかというと非農村住民にむけて開かれていた。農村住民・農家内非農業従事者にむけては、別の「農活」の入口が必要なのだ。
この本では、長野県内の「体験農場」や共同利用の農産物加工場の取り組み事例が紹介されている。これを通じて販売する農業にすすむ人もいるし、何人かで協力して農業を体験することは仲間づくりにもなる(社会に出てから職場外で知り合いをつくるのは難しいんですよ!)。
これは、森林にとってもヒントになるではないか。
山岳地の農村はおしなべて森林地帯だし、住民の多くが森林所有者だが、そんなところでも森林との関わりは減っている。森林の利用は一人ではできない(危険である)。森林と人々との関係を改めてうみだすためには、これまでの林業振興とは異なるアプローチが必要だろう。
もしそこに、「林的な暮らし」を体験するための森林があればどうだろうか……?
著者は信州大学農学部 植物資源科学コースの小林さん。
© 2022 三木敦朗