森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
フィンランド 虚像の森
アンッシ ヨキランタほか
新泉社、2022年
 林業のすすんだ国というと、中欧と北欧がイメージされるだろう。しかし、それぞれの国には、森林に関わるそれぞれの課題があるものである。
 フィンランドは、ソ連との戦争で負った賠償金を支払うために森林を伐採し、これが現代の林業のかたちに影響した。木材生産量を確保するために択伐が否定されて皆伐が中心となり、伐採後には経済的な価値が期待されるヨーロッパアカマツが植えられ、そのために湿地の排水・乾燥がおこなわれ、それが行政や技術者の森林についての「常識」になった。もちろん生物多様性や水質保全の側面からみれば問題の大きい方法である。文化的にも問題がある。近年の木質バイオマスや木質新素材などへの期待の高まりは、こうした森林管理の単純化を継続してしまう可能性もあるわけだ。フィンランドのたどってきた道は、日本と とても似ている。
 一方で異なるのは、森林保護をすれば経済的にも利点がある政策が実施されていることや、愛知目標を達成しようと努力しているところだろう(愛知目標は、名古屋で2010年に開催された第10回生物多様性条約締約国会議で合意された目標だが、日本ではほとんど聞かれなくなった)。「グリーンエコノミー」とか「グリーン成長」では、木材生産量を増やし木材・木質素材を使うことが注目されがちだが、人々が望む「グリーン」は、本当はそれだけではないはずである。フィンランドではこれが論点になっているようだ。
 この本の原題は『Metsä meidän jälkeemme』で、「私たちの後の森」という意味だという。これが市民にもよく読まれているそうで、さすが林業先進国である。林業先進国に倣うなら、日本でも、「私たちの後の森」をどうしていくのかについて、市民が関心を持てるようになることが必要そうだ。
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© 2022 三木敦朗