森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
(映画)杜人:環境再生医 矢野智徳の挑戦
前田せつ子(監督)
日本 2022年作品
ある造園業者の活動を取材したドキュメンタリー映画である。
一般の観客は、本作を楽しんで観ることができるだろう。しかし森林・環境共生学コースの我々は、そうはいかないはずだ。登場人物の行動や、ときおり加えられるナレーションを、「自分ならどうするか・どう言うか」と考えながら追わねばならないからだ。あなたはそれができるだけの学びをしている。自分の知識と思考をはたらかせて、映画が描く内容を検証してほしい。
私の見立てを書いておこう。登場人物たちは、庭園の排水を重視している。地表から土壌への雨水の浸透と、その流下を妨げないように庭を設計・改良することは重要だ。それをどのように表現するかも面白い。「コルゲート管による暗渠」と言うか、「水と空気の通り道」と言うかは、施工依頼者(施主)の理解と行動を左右するだろう。施工後に庭園の良好な排水が維持できるかどうかは、施主の日常的な管理にかかっている。そうだとするなら、施主が管理の方針をイメージしやすいように表現する意味があるかもしれない。
一方で、庭園の排水で得られた知見を、小流域の現象に拡大適用して考えるのは疑問である。温暖化による異常な降雨は、人間が地中表層の水の流れを制御してどうにかできる範囲をこえているのではないだろうか。「環境再生」のために確実に制御できるのは、降った水ではなくて、人間が排出するガスのほうだろう。
造園は、施主の意図や予算の範囲内で、施工側の理想を追求せねばならない、難しい世界である。地中の状況にあわせて施工方法が変更されたときに、施主がみせる戸惑いを、カメラは記録している。フィクション映画とは異なる、ドキュメンタリー映画ならではの点である。
© 2022 三木敦朗