森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
昆虫食スタディーズ:ハエやゴキブリが世界を変える
水野壮
化学同人〔DOJIN選書〕 2022年
 いろいろな昆虫を食べたことがある人と話す機会があったら、テッポウムシについて聞いてみるとよい。イナゴやハチノコ、ザザムシなどは好みが分かれるが、ことテッポウムシについては、みながうっとりとした表情でその美味しさを語るだろう。それをまだ食べたことがない昆虫食家にとっては、まさに垂涎の的だ。
 テッポウムシはカミキリムシの幼虫の別名である。松枯れの原因(宿主)であるように、カミキリムシは害虫だが、かつて薪割りが子どもの仕事だったときには、勤労の副産物でもあった。非木材林産物(NTFPs:Non-Timber Forest Products)の一つなのだ。
 『昆虫食スタディーズ』は、近年 見直されている昆虫の養殖について、一通りの論点を整理している。生産に環境負荷が少ないという優位性だけでなく、人々に受け入れられるかどうか、食べて安全かどうか(甲殻類アレルギーなど)、また動物福祉(アニマルウェルフェア)の観点からみてどうかなどの検討事項も整理される。養殖している昆虫が脱走(逸走)すると、周囲の生態系には影響を与えてしまうから、その可能性の少ない種を選ぶ必要がある。
 こうした整理をみていると、昆虫食は「失われつつある地方の奇習」とか「将来的な可能性のある食材」ではなく、すでに実用化されている、あるいは実用化に向けて具体的な検討をしている段階なのだということがわかる。
 昆虫を食料とすることは、なにも新しいチャレンジではなくて、これまで日本の農山村で普通におこなわれてきたことである。伊那の農産物直売所をのぞいてみれば、佃煮などの加工品はもちろん、フリーザーにイナゴやハチノコの詰まった袋が入っているのを見るだろう。各自で調理するためだ。こうした、昆虫食が文化として根づいている地域から、これからの食のスタイルができていく気がする。
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