森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
きのこの自然誌
小川真
山と溪谷社〔ヤマケイ文庫〕 2022年
松と日本人
有岡利幸
講談社〔講談社学術文庫〕 2022年
どちらも、むかしの本を文庫本化したものだ。『きのこの自然誌』は初版が1983年、『松と日本人』は1993年で、ともに大学図書館に所蔵されている。だからそれを借りて読めばいいのだけど、古い本を優先的に読むということはあまりない。文庫本になることで、改めて目を向ける機会になるというわけだ。
こうした本の内容は、執筆当時の研究を反映している。現在ではもっと正確に分かるようになったことや、今では否定されている説が書いてあることもある。しかし、そういう注意すべき点は、文庫本版の巻末解説で補足されていることが多い。
なぜ むかしの本が新しく文庫化されるかというと、当時の読者が面白いと思った、いわば定評のある内容だからである。面白いこと請け合い、とは言えないまでも、大ハズレは避けられる。
『きのこの自然誌』を書いているのは、森林の菌類の代表的研究者だ。きのこを求め、土を掘って菌糸をたぐる著者の観察眼と仮説を楽しむエッセイ集である。たしかに、キノコが光ったり、ときに人の精神に作用したりするのは、キノコにとってどういう意味があるのだろうか。この人は文章がうまい。本当か? と思うところもあるけれど……。図書館にある『カビ・キノコが語る地球の歴史』(築地書館、2013)も面白い。
『松と日本人』の著者は、国有林で仕事をしていた人で、樹木と文化に関する著作が多い。「魏志倭人伝」には、マツが出てこない。当時の日本にも間違いなく生えていたはずだし、中国でもマツはおめでたい木なのに、である。この謎解きから始まって、日本の文化の中にマツがどう位置づけられてきたかを書く。他の地域では、マツは縁遠い木になってしまったが、私たちにとってはまだ身近な木なので、実感をもって読めるだろう。図書館には他に『里山Ⅰ・Ⅱ』(法政大学出版局、2004)などが納められている。
© 2022 三木敦朗