森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
教えて!信州からの防災学
信州大学地域防災減災センター編
信濃毎日新聞社
2020
 映画「となりのトトロ」では、引っ越してきた日に隣の大クスノキの樹に挨拶に行く。もし現代を舞台にするなら、「おとうさん」は娘たちを地域の災害時避難場所に連れていくことになるかもな、とこの本を読んで思った。いや、それから大樹を見ると避難場所のことを忘れてしまうかもしれないから、大樹のあとがいいか。
 信州は三つの日本アルプスをもつ。プレートの衝突によって地面が隆起し続けている、断層ばかりの場所だということである。いつ地震があってもおかしくない。火山もある。また、北信地域は日本有数の豪雪地帯であるし、逆にその他の平地部は日本有数の小雨地域だ。雪解けや、近年の異常気象で大雨が降れば、山崩れや洪水が発生する。
 これらは自然現象である。止めることができない。だが、それがいつも災害につながるわけではない。自然現象を災害にする/しないは、人間側の行動のいかんによる。
 そこで編まれた本である。森林に関しては、「森林があるからといって、山崩れが防げるとは考えるな」「降雨だけでなく、雪解けにも注意しろ」などと書いてある。人間は、実はあまりパニックは起こさないらしい。逆に「大丈夫だろう」というバイアスが本能的にあって、災害への備えや避難を怠ってしまうという。たしかに私のアパートには生米しか置いていない。
 また人間には、嘘(根拠不明のうわさ)を他人に拡散してしまうという性質もある。これが災害時には最悪のかたちで作用する。日本にはその暗い歴史があるのだ。正しい情報へのアクセスは、実はけっこう限られている。インターネットを利用しようとしても、災害時には使えない可能性が高い。そういえばラジオも持ってないな。
 この本は、災害というものを、原因から対処法まで、様々な分野の執筆者が多角的に解説したものだ。執筆者はすべて信大である。もとは新聞連載なので、簡潔な表現になっている。

 私も一部分を担当した。森林・環境共生学コースからはほかに、平松晋也さん、福山泰治郎さん、上村佳奈さんが書いている。
 新聞連載のときには、解説図を新聞社側につくってもらったのだが、今回の本には転載できない(たぶんイラストレーターの著作権の関係で)というので、私が描いたイラストが一つ載っている。だが、完成した本を見てみるとどうだ。他のページでは、ちゃんとイラストレーターに新たに描きおこしてもらってるじゃないか。これでは私が「自分の絵を載せたがった出しゃばりな素人」みたいだ(笑)
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© 2020 三木敦朗