森林・環境共生学に関連しそうな本を読んで適当に紹介するコーナー
研究者が本気で建てたゼロエネルギー住宅:断熱、太陽光・太陽熱、薪・ペレット、蓄電
三浦秀一
農山漁村文化協会
2021
私事で恐縮だが、中古住宅に住むことになった。
体ひとつに対して部屋が6つもあるので、いくつかの部屋を、学生や地域の人たちが使える場所にしようと思う。遊んだり、会議をしたり、ものづくりをしたり。農学部からわりと近いので、ぜひ利用して下さい。
ところで、1980年代初頭の家に住むとなると、いくつか心配事がある。耐震強度は十分だろうか。シロアリの食害や、雨漏りはないか。アスベストを使っているのでは?
この年代の建物は、至るところ換気口で外気と通じていて、あまり気密性がない。前の住人はエアコンをつけていなかったので、夏はそれほど暑くないのかもしれないが、冬の住み心地はどうだろうか。
吉田兼好が『徒然草』で「夏をもって旨とすべし」と書いたように、日本の住宅は夏場をしのぐことを重視していて、冬の寒さは我慢する構造になってきた。しかし、WHOによれば、健康に生活するためには、どれだけ寒いときでも室温は18℃なければならないらしい。日本の住宅はそれをはるかに下回る。当然危険なわけで、げんに冬のヒートショックで亡くなる人が後を絶たない。
この本で著者は、人間と自然環境に配慮した住宅にするためには、まずは断熱が重要だと主張する。熱が漏れ出すような住宅では、薪ストーブをつけたとしても、大量に燃やさねばならないのだから、環境にやさしいとはいえない。夏に西日がガンガン差し込む家では、冷房も無駄になる。
なぜ断熱が中途半端になりがちかというと、建築費(イニシャルコスト)が少し高くなるからだ。でも、暑くて寒い住宅では冷暖房費(ランニングコスト)が高くかかるので、結局は損をしてしまう。これが分かっていても中途半端な断熱の家を建ててしまうのは、最初の建築費を十分に支払えないという施主の経済事情があるのだが……。
住居で消費されるエネルギーの多くは、冷暖房と給湯という「熱」に関するもので占められている。住居で省エネをすすめようとしたら、「こまめに電化製品を消す」とかよりも、熱を制御しなければならないのだ。著者は、断熱性能を上げる(断熱材を分厚く入れる)ことと、日光を夏は遮り冬は採り入れること、換気したいときに換気できるようにする(勝手に換気されないようにする)ことが重要だという。
その上で、薪ストーブや太陽熱温水器など、自然エネルギーを利用する仕組みを入れる。とくに著者は薪に注目する。太陽電池で発電した電気を蓄めるのは難しい(高価なバッテリーが必要だ)が、どうせ住居ではエネルギーの多くを熱源として使うのだから、薪を使えばよい。薪は、夏の太陽光を冬に取り出すことができる、エネルギーの季節間貯蔵を可能にするものなのだ。
この本は著者が実際に建てた新築住宅を題材にとっているが、私のような中古住宅に住む人にも参考になるところがあった。断熱材を追加して、夏には屋外で遮光できる仕組みを考えたい。
また、森林・環境共生学の視点からも学ぶところがある。一つは、木質バイオマス燃料を使えばよいというものではない、ということ。
もう一つは、大壁工法にも意味があるということだ。従来の日本建築は、室内から柱が見える真壁(しんかべ)工法だった。だから節のない美しい木材を生産するために、丹念に枝打ちをする林業が目指されていた。ところが、最近の住宅では柱が壁の中に隠れている。これが大壁(おおかべ)である。たとえばあなたのアパートの部屋はどうだろうか。2階建てならたいてい木造だと思うが、建物を支えている木の柱は見えないだろう。見えないのなら、節がある木でも同じではないか、もうそれほど丁寧に木を育てなくてもよいではないか。
真壁から大壁になってしまったのは、木を育てる側からすればさみしい。しかし、断熱性能を上げたい建築側からすると、壁が厚くできる(断熱材をたくさん入れられる)大壁のほうがよいらしいのだ。著者は、柱を見せるのではなくて、壁を木の板でつくるとかすればよいという。釈然としないところはあるが、建築(工学)側の言い分も少しはわかった気がする。
© 2021 三木敦朗