林業経済・森林政策に関する定期刊行物寸評
2021年6月
林業経済 74(3)
林業経済 74(3)
【論文】田村「後発林業地の市町村林政と自伐型林業」
 市町村での独自の林業政策がどのように形成されてきたかを、島根県津和野町の事例で追っている。2000年代の同町の林政は先駆的で、のちの「森林・林業再生プラン」につながるものであったが、木材の生産性向上という従来の林業構造政策の枠組みの中のものであったので、生活者から成果が見えづらいものであった。そこでやがて、自伐型林業の普及、またそれを活用した移住者の定着へと変化していく。これは産業政策から 産業を含む地域政策へと拡大する過程であると同時に、地域外の有名人の影響力に依存しがちな政策が町内部に根づいていく過程でもあるだろう。この自伐型林業も、すでに植え・育てられてきた建築用材むけ人工林を前提とし、従来の林業構造政策の補助体系を用いざるをえないという限界をもつという指摘は重要である。

【論文】古賀「狩猟者による小規模獣肉処理場の新設が野生動物管理に与える影響」
 京都府のジビエ肉の小規模生産者(獣肉処理場)の事例調査である。かつて評者の研究室の学生が長野県内で調査した結果とも似ており、結論は首肯できる。それぞれの狩猟者には罠による捕獲までをおこなってもらい、留め刺し・輸送・施設搬入は処理場側がおこなうというのは興味深い。狩猟者の負担軽減と、品質確保のためである。ただし、一人で処理場を営むと、指摘されているように施設稼働率は高くできず、販路の開拓など営業活動も容易ではない。これを解決するのは、数人での協業(労働者協同組合などの)であろうか。
戻る
© 2021 三木敦朗