林業経済・森林政策に関する定期刊行物寸評
2021年5月
林業経済 74(2)、森林利用学会誌 36(2)
林業経済 74(2)
【論文】高野ほか「地域住民による森林整備を支援する森林政策の論点」
 森林・山村多面的機能発揮対策交付金の利用の多い岩手県で、その制度改変に交付金を活用する住民団体側はどのように対応したかを調査したものである。交付金は、地域住民の様々な森林活動を、比較的小規模のものまで支援するのに役立っている。一方で、行政事業レビューで活動の成果を数値的にモニタリングすることが迫られた。調査した住民団体側は、やや負担感はあるものの、それぞれの活動内容にあわせたモニタリングで対応しているようだ。ただし、負担すぎて活動や交付金活用をやめてしまった団体があるなら、それも調査する必要を感じる。
 「交付金に依存せず、いずれ住民団体は経済的に自立せよ」という、よくみられる意見について、山村側の自助努力だけでは問題は解決できないのだから、政策的再配分も必要であると主張している点は重要である。
森林利用学会誌 36(2)
【論文】中田ほか「原木輸送におけるドライバーのヒヤリハット経験の発生要因」
 結果はややはっきりしないが、トラックのサイズが大きくなる(重い荷を積んでいるので急に止まれない)、林道と一般道という異なる道路の変化点(走行のうえで注意すべき項目が変わるから?)、といった場合に、ヒヤリハット事例が増えるようである。林業の労働災害発生率は他産業にくらべて高いが、森林の中での運輸業者の事故は「林業労働」に区分されない場合もあるだろうから、輸送過程での事故の分析も必要である。その参考になる論文といえる。

【論文】井内ほか「南九州シラス地域における作業道の横断排水溝閉塞に関する実態分析」
 横断排水溝が詰まると浸食・崩壊につながりかねないが、その閉塞の要因を解析したものである。作業道開設後3年で閉塞することが多いので、このくらいの年数までには維持作業が必要で、とくに勾配が急な場所や沢を越える場所ではコンクリート路面にすること、横断排水溝を、詰まりやすい凹型丸太ではなく円弧型コンクリート排水溝やゴム板にするとよいことが示唆されている。問題は、3年ごとの維持作業の費用を誰が出すのかである。

【論文】大矢ほか「機械地拵えによる競合植生抑制効果と下刈り回数の削減」
 信州での調査。伐採後、バケットやグラップルで枝条を掃除すると、枝条やA0層が除去され、植栽した木以外の植物の繁茂が2年目までは軽減できる。下刈りを3~4年目だけやればよくなり、造林コスト削減が期待できそうだ。一方で、有機物が除去され、土壌も乾燥するので、植栽木の成長はややおちるようだ。重機の腕が届く範囲=緩斜面では有効な方法であろう。

【速報】富永ほか「伐倒作業を行う林業機械の自律化に向けた自立移動システムの開発」
 GPSが利用しにくい林内では、自動運転車両はLiDARなどで周囲の樹木を「見て」自分の位置を把握する必要があるが、その実験の途中報告である。伐倒・搬出機械を想定しているから、樹木の数や丸太の位置は常に変化する前提である。自動運転するなら、伐倒と搬出を分離して、伐倒を自動化したほうが容易なのではないかと思う。
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